『若獅子の執事がお嬢様に命じられておしっこを我慢する話』
🕑 Added 2019-08-22 15:43:27 +0000 UTC
「お仕置きが必要なようね」
暖かい陽が降り注ぐ屋敷のベランダに、氷のように冷たい声が響く。
白磁のように透き通る肌と海を湛えたように蒼い双眸、肩まで垂らされた金髪。まるで西洋人形のような出で立ちの美しい少女が視線を向けるのは、床に落ちて粉々に砕け散ったティーカップだった。入っていた紅茶が床に広がり、まるで死体から広がる血のような凄惨さを醸し出している。
「申し訳、ございません……」
椅子に腰掛けたまま静かな怒りを放つ少女の前で深々と頭を垂れるのは、黒い執事服を身に纏った獅子の青年である。2mを優に超す巨体で、引き締まった筋肉質な全身は彫像のように洗練されているのだが、粛々と頭を下げるその姿は委縮しきった為か一回り小さく見えた。
壮健で立派な体躯を持つ獅子の青年だが、執事としては半人前もいいところだった。性格は忠誠的で真面目、力持ちで人当たりもよくしかも聡明と非の打ちどころのない青年であるのだが、唯一手先の不器用さだけが致命的だった。
掃除をさえれば部屋中は嵐が訪れたようになり、車の運転をさせれば屋敷の庭から出られず右往左往。手紙の代筆を頼めば筆は折れインクは散乱し、楽器の演奏など聞けたものではない。本人がいたって真面目であるという点を含めて、救いようがなかった。
そんな男が何ゆえ蹴り出されずに執事を務めているかといえば、ひとえに少女の寵愛である。とはいえ、寵愛と言えども純粋なものではない。最悪かつ的確な言い方をしてしまえば――玩具のようなものである。
「このティーカップ、私のお気に入りだったの。悲しいわ、もう使えないなんて」
「申し訳、ありません……」
手を滑らせてティーカップを割ってしまったことに対し、執事の若獅子は今にも消えてしまいそうに縮こまりながら頭を下げる。さながら処刑を待つ死刑囚のような様子だった。
申し訳なさと仕置きの恐怖とに震える獅子の執事の姿を見ながら、少女は内心で愉快そうな笑みを浮かべた。実のところ割れてしまったティーカップはお気に入りでもなんでもなく、代替はいくらでもあるものだった。適当な嘘に対して震える白獅子があまりに滑稽でたまらない、という笑みである。
少女は人一倍加虐心の強い性格をしていたが、立場上そのような素振りを屋敷外の他者に見せることは憚られる。清廉潔白な貴族の一人娘を演じていなければ、周囲から奇妙な目で見られることは間違いないからだ。
そんな少女にとって、唯一内側で昂る加虐精神を向けられる矛先が、若獅子の執事なのだった。彼がどんくさいのは事実で、周囲からも孤立気味である。彼自身の忠誠心を利用して仕置きの口止めをしておけば、少女の加虐嗜好が獅子から誰かに漏れることはないという算段である。最も、自身の受けている辱めを誰かに相談することなど、獅子でなくとも難しい話だ。
「今日のお仕置きはどうしようかしら。ねえ貴方、前回のお仕置きは何だったか覚えていて?」
突然言葉を向けられ、獅子は小さく跳ねた。昨日の顛末を思い出し、羞恥に頬を赤らめる。
「ぜ、前回は……じょ、女性用の下着と、メイド服を、一日中着用しろと仰られて……」
「ああ、そうだったわね。とっても不似合いだったわ」
「うう……」
冷たく微笑む少女の言葉に、獅子の羞恥心が一層駆り立てられる。
体躯の大きな獣人の男性だというのに、女性用の服が全うに着られるはずがない。白黒のエプロンドレスは上半身が肩幅に耐えきれず裂けて悲惨なことになっており、辛うじて収まった下半身もスカートの丈が短いせいで常に下着が曝け出されていた。
白いレースのパンティも、まさか男性器を丸ごと納められるほど猶予のあるつくりになっている筈がなく、例えるならば大玉の林檎を片手で覆い隠そうとするようなものである。ゴムは伸び切り、太腿とパンティの隙間からは隠し切れなかった獅子の睾丸が一部はみ出している有様だった。街を出歩けば一瞬で憲兵に捕まるだろう姿を、あろうことか一日中強制させたのである。
「お嬢様、後生ですから思いとどまって下さい。もう、同じ過ちは繰り返しませんので……!」
仕置きと称した羞恥の数々に、獅子の心はずたずたに傷付いていた。これまで受けた無数の仕打ちを思い出し、泣きそうになりながら悲痛な声を上げる。
しかし、少女は無慈悲にも首を横に振った。
「貴方、以前も同じようなことを言っていたわね。でも駄目よ、お仕置きは絶対だもの」
「そんな……」
獅子は項垂れるも、それ以上食い下がろうとはしない。愚直な忠誠心の為に、それでも命じられた仕置きに対しては渋々受け入れざるを得ないのである。
少女はしばし思案していたが、やがて視線が床に広がった紅茶へと向けられる。
「……ああ、いいことを思い付いたわ」
手を合わせて微笑み、それから少女の視線は獅子の全身をなめ回すように見つめた。
「貴方、今日一日おしっこを我慢なさい」
「……は?」
少女の口から飛び出した突拍子もない言葉に、獅子は呆けたように口を開けた。
「聞こえなかった? 今日、今この時から明日の朝まで、おしっこをしてはいけないと言っているの」
少女は酷く加虐的な笑みを浮かべる。
獅子はしばし口を開けていたが、つらつらと並べられる言葉の意味をようやく理解し、顔面を青ざめさせた。
「そ、そんな……それはあんまりです……!」
現在が朝の十時ごろ。明日の朝まで、という表現が何時のことを指すのか不明だが、仮に少女の起床時間である朝八時だと仮定したとしても、二十時間以上は小便に行けないという事になる。
いくら体が大きい獅子だとしても、そんな長時間の我慢を続けるのは不可能だ。頑張りに頑張りを重ねたとしても、六時間も経てばいよいよ我慢しきれなくなってしまうだろう。つまるところ、少女は漏らせと言っているのと同義なのだ。
「お嬢様、どうかお考え直しください。明日の朝までなど、到底堪え切れません……!」
「だめよ。もう決めてしまったもの。ああ、もしお漏らしなんかしてしまえば、もっと酷いお仕置きをしなくてはいけないわね」
余りにも慈悲のない、まさしく鬼畜の所業というべき仕打ちに、獅子は蒼白な顔で震える他にない。
屋敷に仕えるものとして、主人とその一人娘の命令は絶対だった。例え、それがどんなに不可能に近い事であったとしても。
それから数刻が経ち、昼の十四時。
昼食が終わった少女に付き従い、庭園を散策して回るのも執事の務めである。庭園には麗らかな春の日差しが降り注ぎ、庭師自慢の花壇には色鮮やかな春の花が咲き乱れていた。歌うようにさえずる小鳥たちの鳴き声が、情景ののどかさを一層際立たせる。
そんな、まさしく夢見心地のような場所を歩む少女の顔は明るく、珍しく年相応の表情を見せている。少女が自然体でいられる庭園の散歩時は執事にとっても安らぎの場であったのだが、今日に限ってはまるで異なっていた。
「あら、どうしたの。足取りが重いようだけど」
軽快に歩みを進める少女とは対照的に、執事の獅子の歩みはこれでもかというほどに鈍重だった。まだ屋敷の外に出て数分、そもそも汗ばむような気候ではないというのに、執事は全身から冷や汗を滝のように流している。吐く息は荒く、顔は青ざめていて、心底体調が悪そうな出で立ちだった。
「お嬢、さま……わ、私……もう……っ」
執事は悲痛な声を上げ、執事服の上からぎゅっと股間を抑え込んだ。誰からどう見ても、尿意を堪えている獣人の姿である。
朝起きて用を足したのが朝の五時頃なのだから、単純計算でかれこれ九時間程度は小便を我慢していることになる。幾ら体躯の大きく、忍耐力に長けた獣人の雄といえど、そろそろ我慢の限界が近い。
「お嬢様、お願いです。こ、このままでは……本当に、漏らしてしまいそうで……」
年端もいかぬ少女に小便の許可を強請るなど、余りにも滑稽な状況だった。自分が吐いている言葉があまりにも恥ずかしいものであることを自覚して、獅子の執事は耳まで真っ赤に染まっていた。
しかし既に下腹部はぱんぱんに張り詰めていて、少しでも動けばそれだけで漏れ出てしまいそうになる。少女に指定された明日の朝までなど到底無理な話で、そもそも庭園の散策が終わるまで我慢できるのかすらも怪しい。
「あら、それは困ったわね」
そんな状況を当然理解したうえで、少女は悪戯に歩調を速めた。少女に付き従うことが責務である執事も、当然倣って歩調を速めなくてはならないと知っていたからだ。
ああ、とかうう、とか呻き声を上げ、股間をぎゅっと握り込みながら少女の後を追う執事の姿は、庭園の世話をしている庭師やメイドたちにとっても目を引くものだった。自分の背中に多くの視線が集まるのを感じて、執事は酷くいたたまれない気持ちになる。
誰がどう見ても執事が小便を堪えているのは明白だったが、助け舟を出そうとする者は誰もいない。獅子の鈍くささは屋敷中の誰もが知っていることで、今回のこともお嬢様得意の「仕置き」だろうと理解していたからだ。
むしろ、メイド達は浮足立っているほどだった。屈強な獣人の男性がぎゅっと股間を抑えて揉みしだき、息を荒げながらくねくねと身じろぎをする姿は酷く扇情的で、かなり刺激の強い光景になっていた。大の大人が小便を漏らす姿など到底拝めるものではなく、その貴重な瞬間を目に焼き付けようとさりげなく少女と執事の近くに行こうとする者さえいるほどだった。
「(出る……出ちゃう……っ! おしっこ、おしっこ……漏れる……っ)」
噴き出す噴水の水の音が、花壇に降り注ぐじょうろの雫が、いっそうの焦燥感を煽る。膀胱はもう満水で、歩くたびに水面がたぷんたぷんと揺れて息苦しくなる。
締めた鈴口の隙間からじわりと雫が染み出し、下着の中に大きな染みを作っていた。
「ん、くうっ……あっ、はあっ……」
じゅっ、じゅっと熱い雫が下着の中に広がっていく。
大衆の面前、そしてお嬢様の目の前で失禁など、あってはならないことだ。耐えなければいけないことは十分理解していて、そうしたいと強く思っているのに、限界に悲鳴を上げる体だけは意志に従ってくれない。
「ねえ、そんなにおしっこしたいの」
「う、う゛っ……は、はい……っ……! さ、させてください……っ!」
先を行っていた少女が振り向き、獅子の切羽詰まった様子に揶揄うようなまなざしを見せて問う。獅子は必死そのもので頷くが、大の大人が年端もいかない少女に向けて小便の許可を乞うとは、ひどく滑稽な姿である。
「仕方ないわね。じゃあ、そこでしてしまいなさいな」
「……!」
少女が指さすのは、低く切り揃えられた植え込みの一つだった。青々と茂る葉の高さは、普通の人間にとっては腰程度の高さなのだが、巨躯の獅子執事にとっては太腿の付け根程度までの高さでしかない。
つまり、ここで用を足そうとすれば、体の大部分は衆目に晒すことになる。小便をする、という最も恥ずかしい行為を周囲に知らしめるだけでなく、体の一番隠したい部位も含めて全部が丸出しになってしまうのだ。
獅子もそれを察してか、蒼白な顔を一層青白くさせる。
「お、お嬢様……せ、せめて、トイレに……」
「あら、トイレなんてどこにあるの?」
周囲は庭園で、あるものといえば生い茂る植物と花々、噴水に石畳である。用を足すにふさわしい場所など、当然どこにも存在はしなかった。
「屋敷の中のトイレを使う? そこまで我慢できるのかしら」
「う、うう……っ」
それが無理な話であることは、誰よりも獅子自身が知っていることだった。
もう後はない。今この場で限界を迎えて漏らしてしまうのか、それとも情けなく植え込みに駆け寄って、衆目に晒されながら小便をぶちまけるのか。結局のところ、それは二者択一である。
「……っ。み、見ないで、ください……!」
獅子は股間をしっかりと握り締めたまま、弾かれたような勢いで植え込みへと走っていく。地面から足先に伝わる衝撃が膀胱を揺らし、少しずつ括約筋が緩んでいく。
躊躇と葛藤が獅子の脳裏を過る。周囲のありとあらゆる人目が自分に注がれていて、それはお嬢様とて例外ではない。執事服を脱ぎ、ズボンと下着を下ろして股間を晒せば、一生涯屋敷の中で語り継がれる光景になってしまうだろう。
しかし、でも、そうだとしても、もう――我慢、できない。
「っ……あ、ああっ……」
ぷしゃっ、と噴き出した雫が、執事服の黒いズボンをしっとりと濡らす。
ベルトを乱暴に引き抜き、ズボンと共に肌に張り付いた下着を勢いよく足首まで下す。白日に晒された獅子の逸物はその巨躯に見合うような、まさしく天を衝くような巨砲で、周囲から困惑とも興奮ともとれる熱量の大きなざわめきが漏れる。
「ぁ、ああっ……はあ……っ……」
じょっ、じょおおおおおおっ。
限界まで溜め込まれた濃金色の水流が、ちょろちょろと緩やかに弧を描いて植え込みに突き刺さる。
せき止められていた膀胱の弁が次第に外れていく。そのたびに水流の勢いが増し、広がる解放感といっそうの羞恥心。
周囲の熱い、あるいはにやついた、あるいは愉快気な視線が、獅子の大ぶりな竿に注がれている。体の中で最も恥ずかしく、もっとも隠されるべき恥部を、あろうことか屋敷の庭の中で晒しているという事実に、獅子は全身をひどく紅潮させた。
一刻も早く隠したい。そしてこの場から逃げ去ってしまいたい。はやる気持ちとは裏腹に、限界まで溜め込まれた小便は中々止まらないどころか、まだ勢いを増していくばかりである。
いつしか吸水し切れなくなった植え込みから、臭い立つ濃い液体が染み出して広がっていく。立ち上る臭気が一層強くなる。その大きな体の中にたんまりと溜め込まれた小便が勢いよく噴き出すさまは、さながらダムが放流するかのように迫力に満ち溢れていた。みっともなさと雄々しさとが両立する異様な光景に、周囲のざわめきが強くなる。
「(見……っ、みないで……くれよおっ……!)」
心の内での獅子の叫びは、しかし誰にも届かない。
一番見てほしくないと願う少女は、むしろすぐ傍でしげしげと一連の様子を見守ってさえいた。にこにこと、いつものような加虐的な笑みを浮かべるさまは、弄りがいのある玩具を目の前にした時の様子に他ならない。
「あなた。おしっこも我慢できないだなんて、恥ずかしいひとね」
一段とはっきり響く少女の声に釣られて、周囲からくすくすと嘲笑が漏れはじめる。
その光景は最早、ただの辱めでしかなかった。おしっこを我慢できずに庭の中へと立小便など、子供でもあるまじき行為なのだと再認識させられる。消えてなくなりたいほどの羞恥に身を縮こまらせながらも、しかし小便は終わらない。
「(早く……早く終わってくれよ……!)」
今にも泣き出しそうに、獅子は顔をくしゃりと歪めた。
嘲笑。そして舐め回すような周囲の視線。しかしそれでも小便の水流は無慈悲に流れ続け、獅子の地獄は終わらない。