ネ◯ウヨ妻、韓堕ち⑧
🕑 Added 2022-01-21 16:02:24 +0000 UTC
「いやぁ、急に取引先の方の体調が悪くなっちゃってさあ。結局大丈夫だったんだけど、まあ大事をとってゴルフはまたの機会にってことになったよ」
朝一で出かけた夫が帰ってきたのはキムくんとの「レッスン」が始まりそうになってすぐのことだった。キムくんとただならぬ雰囲気になっていた私は、一度目のチャイムでは出ないことを選択した。宅急便でも回覧板でもなんでも関係なかった。その時は、キムくんと面と向かい合っていることの方が重要に思えたからだ。
2回目のチャイムが鳴り、その後3回目のチャイムが鳴ったとき、さすがに宅急便や回覧板にしてはしつこすぎると思った。嫌な予感がしたが、出るしかなかった。
「ごめんね、鍵を忘れちゃってさ。今日は韓国語のレッスンだって言ってたから家にいるとは思ってたけど佳奈がいて助かったよ」
夫は荷物を片付けながらそう言った。
私の横にはキムくんがいる。キムくんは今どんな心境なんだろう。あの瞬間、明らかにキムくんは私を一人の女として見ていた。まるで鷹が地上にいるうさぎに、上空から爪を立てて襲いかかるような迫力をあのときのキムくんからは感じた。そして、私はそれを一瞬、ほんの一瞬だけ受け入れようとしてしまった。3回目のチャイムで現実に引き戻されるまでは。
キムくんにしてみれば、突如現れた草食動物に狩りの邪魔をされたようなものかもしれない。
「初めまして。佳奈さんの韓国語の家庭教師をしています。キム・ヨンスと言います」
あれ?
私の勝手な想像とは裏腹に、キムくんは思っていた以上に穏やかに夫に自己紹介した。
「キムくんね。よろしく。大学生なんだっけ?」
「そうです。日本に留学して2年になります」
「そうなんだ。2年でここまで日本語が上手くなるのか、すごいね」
「韓国でも勉強してましたから」
「なるほどなぁ。佳奈もキムくんみたいに韓国語が上手くなるかな?」
「僕がみっちり手取り足取り教えますから大丈夫ですよ。大船に乗った気でいてください」
「それは頼もしいな。佳奈もチマチョゴリなんか着てやる気十分みたいだしな」
二人は和やかに談笑している。
夫はタメ口でキムくんは敬語だが、二人の体格差を見ているとどちらが目上の人間かわからない。身長は、180cm以上あるキムくんに対して、夫は170cm。柔らかく丸みを帯びた背中に象徴される筋肉が全身を覆っているキムくんに対し、夫は日本人らしいガリガリ体型、その割にお腹だけは早くもぽっこりと出ている。男であることの堂々とした魅力を感じるのは、どう考えてもキムくんの方だった。なんというか、種族が違うとしか言いようのない差だった。
並ぶとこんな風になっちゃうんだ。
夫への愛が冷めたわけではないが、見た目というのはこんな風に衝撃を与えるものなんだと思った。
キムくん、かっこいいな。ドキドキさせてくれるし、背も高いし。あ、笑った。笑う時に目が細くなって黒目が大きくなるところが好きなんだよなぁ……
え?
だめだめ。流石に今の考えはダメだって。
夫とキムくんがいて、どうしてキムくんの方にしか目が行かないの。
キムくんは有名人でもなんでもないただの一般人なんだから、見惚れてかっこいいって心の中で思うのは違うでしょ。
「じゃあ、佳奈さん、レッスン再開しましょうか」
キムくんの声で我に帰る。そうだ、まだレッスンの時間はたっぷり残っている。私とキムくんはこれからまたあの部屋に戻って二人きりでレッスンを続けなければいけないんだ。
——-
部屋のドアを後ろ手に閉めると、キムくんは、はぁーっと呆れたようなため息をついた。やっぱり怒っていたのだ。自分の狩りを邪魔されたことを。なんて身勝手な怒りなんだろうと思う前に、キムくんの怒りを鎮めなければという義務感に駆られた。
「あの、キムくん、ごめんね?急に夫が帰ってくるなんて思わなくて。レッスンの時間短くなっちゃって本当にごめんなさい。せっかくキムくんが今日やることを色々考えてきてくれてたのに」
どう考えても、レッスンの時間が短くなったことに対する怒りではないことは明確だ。だけど、ここで決定的な一言を自分から言ってはいけないとも思っていた。キムくんと何かあるときは、あったとしても、決して自分の意思ではない。それは、キムくんが強引に何かしてきたときだけだ。
「何を謝ってるの?」
「え?」
「別に僕は怒ってないですよ。だけど、佳奈さんは何か謝ることがあるんですか?」
「だって、キムくん、あの時私に何かしようとしてきたじゃん」
「何かってなんですか?」
「何かって……私の服を脱がせようとしてなかった?」
「してましたよ。それでなんで佳奈さんが謝るんですか?佳奈さんが怒るんだったらわかりますけど」
「それは…そうだけど」
「やっぱり佳奈さん期待してたんですね」
何も言い返せない。どう考えても私の論理は破綻している。キムくんの言う通り、キムくんの怒りをなだめようとする必要なんてなかった。私が怒ればいいだけの話だったのだ。だけど、そんな当たり前のことができずに、キムくんに心の中を見透かされてしまった。
「レッスンを始めますよ」
興が削がれたのか、キムくんはそれ以降私に性的なアプローチをすることもなくレッスンは終了した。
「あの、キムくん、来週のレッスンは?」
「来週もレッスンしてほしいんですか?」
「うん、してほしい…」
「じゃあ……」
キムくんは私の耳元に口を近づけると、来週までの宿題を私に告げた。その衝撃的すぎる内容に、私はしばらくキムくんが言ったことを理解できなかった。
え?
なんでバレてるの?